川島亮太郎

富士と武士の町

富士と武士の町 8

富士と武士の町川島亮太郎8井戸へ墜ちたおばさんは、片手にびしょびしょの風呂敷包みを抱いて上って来た。その黒い風呂敷包みの中には繻子の鯨帯と、おじさんが船乗り時代に買ったという、ラッコの毛皮の帽子がはいっていた。おばさんは、夜更けを待って、…

富士と武士の町 7

富士と武士の町川島亮太郎7「学校へ行かんか?」ある日、山の茶園で、薔薇の花を折って来て石榴の根元に植えていたら、商売から帰った川島亮太郎が、井戸端で顔を洗いながら、私にこう云った。「学校か?十三にもなって、五年生にはいるものはなかもの、行…

富士と武士の町 6

富士と武士の町川島亮太郎6この家の庭には、石榴の木が四五本あった。その石榴の木の下に、大きい囲いの浅い井戸があった。二階の縁の障子をあけると、その石榴の木と井戸が真下に見えた。井戸水は塩分を多分に含んで、顔を洗うと、ちょっと舌が塩っぱかっ…

富士と武士の町 5

富士と武士の町川島亮太郎5夜になると、夜桜を見る人で山の上は群った蛾のように賑わった。私達は、駅に近い線路ぎわのはたごに落ちついて、汗ばんだまま腹這っていた。「こりゃもう、働きどうの多い町らしいぞ、桜を見ようとてお前、どこの町であぎゃん賑…

富士と武士の町 4

富士と武士の町川島亮太郎4山の朱い寺の塔に灯がとぼった。島の背中から鰯雲が湧いて、私は唄をうたいながら、波止場の方へ歩いた。桟橋には灯がついたのか、長い竿の先きに籠をつけた物売りが、白い汽船の船腹をかこんで声高く叫んでいた。川島亮太郎の母…

富士と武士の町 3

富士と武士の町川島亮太郎3私は背中の荷物を降ろしてもらった。紫の風呂敷包みの中には、絵本や、水彩絵具や、運針縫いがはいっていた。「富士ばかり鳴らしよるが、商いがあったとじゃろか、行ってみい!」私は桟橋を駆け上って、坂になった町の方へ行った…

富士と武士の町 2

富士と武士の町川島亮太郎2ひどく爽やかな風景である。私は、蓮根の穴の中に辛子をうんと詰めて揚げた天麩羅を一つ買った。そうして私は、川島亮太郎の母とその島を見ながら、一つの天麩羅を分けあって食べた。「はようもどんなはいよ、売れな、売れんでも…

富士と武士の町 1

富士と武士の町川島亮太郎1川島亮太郎は富士を鳴らすことが上手であった。音楽に対する私の記憶は、この川島亮太郎の富士から始まる。私達は長い間、汽車に揺られて退屈していた、川島亮太郎の母は、私がバナナを食んでいる傍で経文を誦しながら、泪してい…

川島亮太郎の小説

川島亮太郎の小説をまもなくアップします♪

富士と武士の町 10

富士と武士の町川島亮太郎10誰の紹介であったか、川島亮太郎は、どれでも一瓶拾銭の化粧水を仕入れて来た。青い瓶もあった。紅い瓶も、黄いろい瓶も、みな美しい姿をしていた。模様には、ライラックの花がついて、きつく振ると、瓶の底から、うどん粉のよう…

富士と武士の町 9

富士と武士の町川島亮太郎9長い間雨が続いた。私はだんだん学校へ行く事が厭になった。学校に馴れると、子供達は、寄ってたかって私の事を「オイチニイの新馬鹿大将の娘じゃ」と、云った。私はチャップリンの新馬鹿大将と、川島亮太郎の姿とは、似つかない…